
marinca52
風炉と炉の違い
〜『夏は涼しく冬暖かに』利休百首より〜
茶道において、季節に応じて使われる「風炉(ふろ)」と「炉(ろ)」。
その違いを知ると、茶の湯の奥深さと、もてなしの心がより一層感じられるようになります。
今回は、「風炉」と「炉」の違いについてご紹介しながら、利休の残した教えのひとつである「利休百首」にも触れてみたいと思います。
◆ 風炉とは?——夏を涼しく過ごす工夫
「風炉」は5月から10月の暑い季節に使われる、畳の上に置く移動式の釜です。
- お客様の近くに設置され、開放感があり涼やかな印象
- 風が通りやすく、見た目にも軽やか
- 道具の取り合わせも、籠やガラス、青磁など清涼感のあるものが選ばれる
夏の暑さの中でも、茶室に一歩入ればほっとするような涼しさ。これは、単なる温度ではなく、「目で涼をとる」「音で涼を感じる」といった、五感に働きかけるもてなしの表れです。
◆ 炉とは?——冬を温かく包むしつらえ
「炉」は11月から4月の寒い季節に使われる、畳を切って床に埋め込まれた釜です。
- 客の位置から少し離れた場所に設置され、空間に静けさと落ち着きをもたらす
- 床下に熱が伝わるため、部屋全体がほんのり温かくなる
- 道具も、重厚感や温もりのあるものが用いられ、冬らしい静謐な雰囲気を演出
寒い時期でも、茶室に入れば心からほっとできる。そんな時間を提供するのが「炉」の魅力です。
◆ 利休百首「夏は涼しく冬暖かく」に込められた精神
千利休が茶の心得として詠んだとされる「利休百首」の中に、次の一句があります。
「夏は涼しく冬暖かく」
この言葉は、単に気温や室温の話ではありません。
茶の湯とは、客の心を思いやること。
暑い日には少しでも涼しさを、寒い日にはほんのりとした温かさを感じてもらえるように——
そのために、季節に応じて「風炉」と「炉」を使い分けるという工夫があるのです。
利休のこの一句には、何を出すかよりも、どう感じてもらえるかを大切にするという、茶道の本質が込められています。
◆ おわりに
「風炉」と「炉」は、ただの道具の違いではなく、季節に寄り添い、お客様を思う気持ちそのもの。
利休の教えにあるように、「夏は涼しく冬暖かく」というもてなしの精神が、現代の私たちにも静かに語りかけてきます。
何気ない一服の中にも、季節と心づかいがそっと込められている——
そんな茶の湯の魅力を、これからも感じていきたいですね。
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